やがて格納庫のハッチが開き、シアンお兄様の向こうに霞んだ空が見えた。雲間の左手下方に僅かながらシュクリの山頂が見える。……てことは、随分上空へ上がったんだ。確かにこの辺りは雲が多くて、飛行船を隠すには好都合に思われた。

『全員無事ネ? これから急降下するわヨ。シアン、グライダー準備! 見極めて飛び出してちょうだい。三人も降下の準備して! 用意が出来たら合図をよこしてネ!!』

 グライダーの天井部にある小さなスピーカーから、良く通るお姉様の声が聞こえてきた。一瞬にして張り詰める機内。それを機にザックを前にぶら下げたアッシュが、パラシュートを背負ったあたしを背に括り付ける。隣でルクはパラシュートの下に大きなザックを背負い、更にアッシュと同様に前にも抱えた。全員がそれぞれ「準備万端」の頷きを交わす──ついに出立の時だ!

「ハニィ、こっちはOKだよ」
『了解~それじゃあみんな、良く掴まってるのヨ! 必ず全員無事に戻るコト!』

 お兄様とお姉様のやり取りに、元気な返事を送る三人。けれどその直後、視界の端にあの真っ赤な光線が流れ──

「ま、待ってお姉様! サリファが誰かを攻撃してる!」

 ずっと遠い眼下だけど、山頂から放たれた(くれない)の光は、南部の麓で──爆発した!

『随分離れた裾野だわネ。あの辺りならラウルやツパイの心配はないわ! あーきっとロガールが言ってた「精鋭部隊」ネ! 彼らには申し訳ないけど、サリファの眼がそちらへ行っている今こそチャンスじゃない~という訳で……行っくわヨ~!!』

 ──えぇぇ~~~!?

 心の準備が出来ない内に、飛行船が一気にダイブした──!!





[註1]グライダーの定員:通常は一~二名ですので、シアン機はほぼ小型飛行機と思ってください。