「リルヴィちゃん」

 ルクの目の前に掌をかざし、自分の瞳も逆の手で視界を遮っていたあたしへ、落ち着いたお姉様の声が呼び掛けた。

「ユスリハちゃんがアナタを(かば)ってこうなったことも、ラウルが単身救出に向かったことも……全部アナタの所為ではないから、もう気にするのはおよしなさい。ワタシもお腹にこの子を宿して分かったの。親ってネ、何が遭っても無条件に子供を守るように出来てるのヨ」
「お姉様……」

 そう言って、お姉様はベビちゃんを慈しむように、丸みのあるお腹を優しく撫でた。その微笑みが全てを物語っている感じがした。きっとあたしがお腹の中にいた時も、ママはおんなじ眼差しをしていたに違いない。

「うん……ありがとう、お姉様」

 満足そうに頷きを返すタラお姉様、けれど今度はちょっとおっかない顔になって、両隣のアッシュとルクを順に見据えた。

「最後にもう一度言っておくわヨ? 二人共、ココで無駄死になんてしたら、弟子失格と思いなさい。全員無事に帰ってこなかったら承知しないんだから! もう二度と……誰かが誰かの為に眠り続けるなんてこともないようにっ! 分かったわネ!?」

 眠り続ける……きっとパパのことだ。

 ウェスティとの闘いの後、パパは『ジュエル』を消滅させるため、自身を犠牲にしようとした。あの時タラお姉様は感じたのかも知れない……思い知ったのかも知れない。大切な人の笑顔を見られなくなることの辛さを。一緒に笑い合えることのなくなる哀しみを。

「「はい」」

 アッシュとルクもそれを感じ取ったように、しっかりとした返事をした。


 
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