「ワタシはアナタ達が命を差し出してまで、完遂してもらいたいワケじゃないのヨ。危うくなったらリルヴィちゃんを連れて逃げなさい。第一、自分の為に二人が死んだら、この子は一生重荷を抱えるわヨ。それはココで待っていても、一緒に行っても同じ……だったら」

 再び背もたれから上半身を起こし、お姉様はピンと背筋を伸ばした。戸惑うアッシュの灰水色の瞳を、いつになく真顔で真っ直ぐ見詰めた。

「……だったら、この子を連れて行ってあげなさい。それでなくともこの子は自分の所為で、母親(ユスリハちゃん)が連れ去られたのだと自分を責めてる。更にもう今の時点で、ラウルとピータンとツパイとアイガー、二人と二匹の心配で胸が一杯なの。其処へアナタとルクアルノの心配までさせたら……この子の心は壊れるわヨ。せめて状況が分かる所まで連れて行ってあげなさい」

 見えるアッシュの横顔は、お姉様の言葉で硬く引き締められた気がした。

「ルヴィ……行こう?」
「ルク……?」

 その時、隣からすっと立ち上がり声を掛けたのはルクだった。見上げた顔はアッシュと同じく引き締まって、優しい薄翠色の瞳で見下ろしている。

「一緒に行こう。ルヴィは絶対、アッシュとボクで守るから」

 なんだろう……どうしてだろう?

 あたしと変わらない身長が、一回りも大きく感じたのは何故だろう??

「ああ……今回は完全に僕の完敗だ。リル、絶対に僕達から離れないでくれよ?」

 逆隣からもっと大きな影が立ち上がり、少しふてくされたような表情で見下ろしていた。変なの~まるで二人が逆転したみたい!

「ありがとう……ありがとう! ルク!! アッシュ!!」

 そしてあたしもすっくと立ち上がって、両手を二人の肩に伸ばした。勢い良く飛び上がって、二人をいっぺんに抱き締めた──!!