ルクの声が小さく掻き消えて、しばらく皆も沈黙してしまった。あたしはその静寂が自分に与えられた時なのだと思い立って、思い切って口を開いた。

「あ、あの……ロガールじじ様」

 じじ様に向けたあたしの思い詰めた表情が、皆の視線に捉えられた。

「ああ、何だい? リルヴィ、言ってごらん」

 薄く笑んだじじ様の様子に、あたしの緊張は少しばかりほどけていく。

「ツパおばちゃんがサリファの前に現れた時、サリファはおばちゃんを「ノーム」って呼んだんです。それからパパには「二千六百年の執念」がどうとかって……」
「ふぅむ……」

 ロガールじじ様は王族の一員だから、もしかしたらヴェルの古い歴史にも精通しているかも知れない。

 案の定じじ様の太い指が、何かを思い出そうとするように顎髭を撫でた。斜め上に流していた瞳を、今一度あたしに戻し、

「ノームという呼び掛けは分からないが、後者には心当たりがない訳ではないな……確かこの国の起源は二千六百年程前になる。サリファの言う「執念」とやらが、ヴェルの過去に関係するのなら……が、確信は持てない。一度図書室で調べてみるから、少し待っていてくれるかい? それから既に精鋭部隊がラヴェルの援護の為にシュクリへ出発した。だからリルヴィ、此処で安心して待っているんだよ」

 と言い終えて、手元のお茶を飲み干した。