「え……?」

 お兄様が扉を開けた途端、耳に入ってきたのは甲高い金属音だった。そして裏庭の青い草の上では──

「ルク! 踏み込みが遅い!! 其処で突っ込まないと、やる前にやられるぞ!」
「は、はいっ!!」

 ど、ど、ど、どうなっちゃってるの!?

 二人が……剣を交えて闘っている!?

「へぇ~リルヴィって全然知らなかったんだね? ルクアルノはともかくとして、アシュリーのことも」
「え?」

 あんぐり口を開けたまま魅入ってしまったあたしの横で、シアンお兄様が愉しそうに呟いた。

 その間にも闘いは続いていて、いや……これって何なのよ!?

「アシュリーは君と初めて逢った七歳から、タラにずっと稽古を付けてもらってるんだ。キミのパパがタラの一番弟子だから、彼は二番弟子だね。タラはラウルに教えた後、ずっと弟子を取らなかったから。で、ルクアルノは三番弟子。と言ってもまだ三年前からだよ。今はタラが身重で教えられないから、アシュリーがルクアルノの仮師匠ってところかな?」

 七歳から? 三年前から?? そう言えば昔ウェスティを倒すため、パパに剣術を教えたのは、剣士だったタラお姉様だった! でも弟子入りだなんて……アッシュもルクも全然教えてくれてない!!

「お、お兄様! どうして二人はあんな剣術なんて学んでいるの!? だって今は平和な世の中なのに……!」
「うーん? そうだねぇ~しいて言えば、二人共キミを守りたいからじゃない? そして今が「その時」なんじゃないかと」
「え……? ええっ! えええ~!?」

 確かに今あたしに起きている『事件』は、平和とは真逆の出来事だった。だけど、でも──!

 あたしを守りたいって、一体全体!?

「ど、どうして……」
「ん? 意外に鈍感だなぁ、リルヴィ。キミが二人にとって『宝物』だからでしょ?」

 あたしは驚愕して、咄嗟にシアンお兄様を見上げた。視界に入った「誰でもノックアウト出来そうな」絶品ウィンクに、思わず倒れてしまいそうだった──!!