「おやすみなさい、シアンお兄様。おやすみ、アッシュ、ルク……今日は本当にありがとう」

 アッシュが使っている客室は、お姉様達の寝室と廊下を挟んで向かい合わせだ。その手前で三人におやすみの挨拶とお礼を言って、あたしはタラお姉様と部屋に入った。

 クイーンサイズのベッドが半分を占める、淡いオレンジ色の洗練された空間。良く暖められているのもあるけれど、この色だけでも心が穏やかになれる気がした。

「どうしてそんな隅っこで寝ているの? 獲って喰ったりしないから安心なさい?」
「そ、そんなこと思ってませんってば!」

 こんなに大きなベッドは初めてだった。身を寄せなければ落ちそうだなんて、明らかに見えないもの。極力お姉様の迷惑にならないように、との配慮のつもりだったのだけど。

「あたし、寝相悪いから、お姉様のお腹を蹴っちゃうかも知れないし……」

 何しろ今朝も寝ぼけて、カプセルに頭を強打したばかりだ。

「蹴ってくれても全然問題ないわヨー。それでなくても毎日内側から蹴られまくっているのだし」
「こんな時間まで起きてたら、赤ちゃん寝不足にならないかしら? 早くお姉様眠ってあげて!」
「むしろワタシを起こしてくれるのはこの子なんだから、あんまり心配しないで大丈夫ヨ。とにかくこっちにおいでなさい」
「う、うん……」

 あたしは布団をまくられ手招きをされ、はにかみながらその厚意に甘えることにした。お姉様の長い腕が、あたしの首の後ろから肩を抱いてくれた。

 途端ラヴェンダーの微かな香りに、柔らかく包み込まれた気持ちがした。