「こんな遅くに伺って、タラお姉様の赤ちゃん驚かないかしら?」

 春の夜はまだまだ寒い。見上げれば沢山のキラ星が瞬いていた。まるで何事もなかったように、街灯の向こうに家々が沈んでいる。あんな大騒ぎがあった王宮とは逆方向の道だから、尚更静かなのも当たり前ではあるけれど。

「僕が帰ってくるまでは、何も心配せずに休んでいてと言ってはあるし……シアン兄さんもついてるから大丈夫だよ。でももしかしたら様子を見に行った近所の人から話を聞いて、もう事情を知っているかも知れないね」
「うん……そうだね、急ご」

 夜はとっくに更けてしまって、朝が訪れるまでの時間の方が、断然近い時刻なのだ。あたしはお姉様を想って早足になった。それに気付いたルクの足取りも忙しくなった。

 やがて久し振りに見えたタラお姉様とシアンお兄様のお宅は、煌々(こうこう)と照明が点けられていた。その手前、門扉の前にスラリとした影が目に入る。

「えっ……タラお姉様!?」

 気付いたあたしは慌てて駆け出した! ルクを追い越して近寄ったそのシルエットは……毛布ごとシアンお兄様に包み込まれた、タラお姉様の姿だった──!!