ルクの声と共に明かりが灯されたので、あたしはまるで蛙が飛び跳ねるように、アッシュから背後へ遠ざかっていた。

「え……? っと……ア、アッシュ??」

 エントランス横のスイッチに手を掛けたままのルクが、ビックリまなこでアッシュの背中に問い掛ける。

「ごめん、ルク。驚かせて……王宮からリルの護衛を頼まれてね。着いた途端リルが照明も点けずに走り込んだら、何かにつまづいたみたいで……僕は転ばないように支えていただけだよ」

 振り向きざまに説明したアッシュは、特に動揺の兆しも見せなかった。言い終えた後にあたしにもう一度振り向いて、ルクに気付かれないよう鮮やかなウィンクを決めるところは……もうさすがとしか言えない。

「そ、そう……ボクも王宮に行ったんだけど……ル、ルヴィのお父さんとお母さんの噂を、みんながしていて……き、気になったから、来てみたんだ……それで……その……」
「噂……」

 もう、みんな知っているんだ。ママが紅い光(サリファ)(さら)われて、パパが助けに向かったことを。

 ルクはそこまで小声で呟いた後、俯いて黙り込んでしまった。あたしのために消沈しているルクを、いつの間にか励まそうとしている自分がいた。

「ルク、あの……心配してくれてありがとう! でも……大丈夫だから。パパがきっとママを助け出してくれるから……ルクはお家で休んでて。あたし、タラお姉様の所で待っていることになったから」
「ルヴィ……? ひ、左眼、どうしたの? 義眼、な、失くしちゃったの?」
「あ……」

 ゆっくりともたげたルクの翠色の瞳が、アッシュの横から覗かせた左瞼に気が付いた。『ジュエル』がパパを宿主と決めて、空っぽになってしまった瞼の裏。もちろん伏せてはいたのだけど、サッと手を添えて背中を向ける。そこからまた涙が溢れてしまいそうだったからだ。

「ううん、あるよ……義眼()めて、荷造りしてくる! アッシュ……ごめん、ちょっと待ってて!!」

 あたしは(かす)れてしまわないように喉元に力を込めて、慌てて自室に駆けていった。



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