「リル……? 何が遭ったの!? 大丈夫!?」

 パパが見えなくなって数分後、ツパおばちゃんに背中をさすられ(なだ)められながら、あたしはまだ立ち尽くしたまま泣き続けていた。その呼び掛けに驚いて咄嗟に顔を上げたけれど、それは王宮の様子を心配して駆けつけたアッシュの声だった。

「ア……アッシュ! ママが……パパが……!!」

 思わずアッシュにしがみついてしまった。抱き留めてくれた彼の腕は、パパと同じ優しさで包み込んでくれた。

「アシュリー、申し訳ありませんが、リルヴィをタラの家で(かくま)ってはもらえませんか?」
「え……? 匿うって……誰からです?」

 あたしはハッとして、アッシュの胸の中から振り返った。ツパおばちゃんはどうするつもりなの!?

「後ほど詳しく説明します……。リルヴィ、まずはタラの許で心落ち着かせてください。彼女の傍が一番安心出来るでしょう」
「ツ、ツパおばちゃんは!? いやよっ……おばちゃんも独りで行くなんて言わないで!!」
「独りで? ……リル?」

 あたしはアッシュのシャツをギュッと握ったまま、焦燥を露わにした。ツパおばちゃんまで危険な目には晒したくない! なのにおばちゃんは顔を俯かせて、見える唇は引き結ばれていて、垂らした両手を強く握り締めていた。

「事の発端は私にもあるのです……が、もちろん危ないことは致しません。王を安全な地へお連れしたロガール様に、経緯を知らせてくるだけですよ。リルヴィは先にタラの家へ向かってください。僕も後から参ります」

 おばちゃんが……「僕」って言った……?

 あたしが最後の言葉を(いぶか)しく思っている内に、ツパおばちゃんは敷地の奥へ走り去ってしまった。仕方なくアッシュにお願いをして、タラお姉様のお家へ向かう。必要な荷物を取りに、途中自宅へ寄ってもらうことにした。