「サリファ……やはり生きていたのか……」
『おや……生きていると分かっていたから、来たのではないのかい? ウル……』

 パパの言葉に光の中心から悪意のある声が応えた。サリファって誰!? パパを本名「ラウル」の後半「ウル」と呼ぶ人は、あたしも一人だけ知っている──パパがママと旅した時にやっつけた、化け物を操っていた人──ウェスティ……パパの従兄(いとこ)で、先代王の息子だ。

『もちろんあんな結界の中では、ウェスティ亡き後さすがに肉体は消滅してしまったよ……が、二千六百年の執念とはおぞましいものさ……われに結界を破らせるほどの力を注いでくれた……』
「もう十分じゃないのか? 母親ならウェスティの供養に、静かに祈りを捧げるべきだ」

 母親? そうだ……ウェスティと共に、先代王によって地下の結界へ封じ込められたお妃!

 でも二千六百年の執念って一体何!?

『良くもそんな戯言(ざれごと)が言えたものだね……寄ってたかって息子をいたぶり殺したくせにっ! お前は気付いていたんじゃないのかい……? あの子がお前に「スティ」と呼ばせた訳を……なのにお前はあの子の想いに応えてやらなかった……ああ、愚かなるも愛しい息子であったと言うのに……』
「……愚かなのは貴女だ、サリファ。自分はその時そんな理由なんて知らなかった。ツパが教えてくれたのは、自分が目覚めた後だ」
『ノーム……』

 二人の会話の意味は全く分からなかった。ツパおばちゃんは何をパパに教えたんだろう? 悪いお妃(サリファ)は天を貫きそうな鋭い光の柱と化して、パパの前でユラユラと揺らめいていた。そして最後に低く呟かれた『ノーム……』という言葉……それはいつの間にかパパの背後に佇んでいた、ツパおばちゃんに発せられた気がした。