「僕は良くなると思うけど?」

 投げ掛けた質問が、アッシュの高い背を屈ませた。やがて草地にしゃがみ込んでいるあたしに、(なら)うように腰を下ろした。

「王様が仰られたように、国民に依る国民の為の政治が始まるんだ。僕も今まで国に貢献してきたツパイおばさんは適任だと思う」
「そしたら王家はどうなっちゃうの? みんなが要らないって言ったら??」

 ほんの三年だけどパパが名乗った「アイフェンマイア」の名が、(おとし)められてしまうのは耐えられなかった。そしてそれはあたしに宝物をくれると約束してくれた、おばあちゃんの家なのだもの!

「大丈夫だよ。むしろ王家はかけがえのない物に高められて、途切れることのないように大切にされていくんだ。『象徴』とは言っても、実際には権威も権力も保持される。僕の祖国と一緒だよ」
「え?」

 イギリスと一緒?

 疑問の声と共に向けた視界には、自国の位置へ鼻先を合わせた、柔らかい微笑みがあった。

「『国王は君臨すれども統治せず』──連合王国であるイギリスも長い間そうしてきたんだ。そして王家は伝統を守るため誠意を尽くしてきたし、今でも国民に愛されている。だから大丈夫だよ、自信を持って安心させられる見本が、目の前にあるのだから」
「そっか……そうだよね」

 安堵して抱えた膝小僧に顔を寄せた。あたしに細かいことは分からないけど、そういう国に住むアッシュがお墨付きをくれたのだ。きっと良い未来が待っている、そんな気持ちになれた。