ヴェルの王家アイフェンマイアのお城は、我が家からほぼ真っ直ぐ北へ向かって徒歩十分といった所に在る。

 広大な敷地はまるで毛足を揃えた緑の絨毯のようで、整然とした木々のこんもりとした丸みも可愛らしい。早咲きの花々が既に幾つかの花壇を飾っている。もちろんラヴェンダーもお城を囲むように生垣を作り、白亜の宮殿を一層白く輝かせる。こんな美しい宮殿で鮮やかなドレスを(まと)ったら、きっとあたしだってお姫様に見間違えられるだろう! でもママが用意してくれたのは、あたしのピンク・グレーの髪色を映えさせる、白い膝丈のシンプルなワンピースだった。

 あれから我が家に到着したあたし達は、アッシュのご教授で約三時間の地獄の特訓(!?)を終えた……。

 いつもは使われていないお家だから、三年分の埃が積もっている筈! と、清掃を手伝うという名目で逃げるつもりだったのに、タラおばちゃんとツパおばちゃんが、ある程度の掃除を前日に終えてくれたとのこと。お陰様でルクとあたしの宿題は、七割程度は終わっただろうか? でももうそれ以上は集中力が続かなくて、とうとう根を上げたあたし達を、アッシュは何とか解放してくれた。

 それからしばらくゲンナリと机に突っ伏して眠ってしまい、気付いたら昼食会へ出発する時刻が迫っていた。ママに起こされて支度をして、髪は結い上げるほどの長さはないので髪飾りだけを添えて……あたし達が昼寝をしてしまった間に、タラおばちゃんの自宅で衣装替えを済ませたアッシュも加わり、五人で王宮に到着したのは、開催十五分前というちょうど良いタイミングだった。

 案の定、礼服に着替えたアッシュはまるで王子様のようで、反面ルクは「着ている」というよりも「着られている」状態だったのは……言うまでもない。