「その通りです」

 その時あたしの身体を大きな影が覆った。一本芯の通った力強い声。ツパおばちゃんの戸惑う黒目が、徐々に上がってあたしの頭上を望む。振り向けば先程格納庫で話をした「彼」が、あたしの後ろに佇んでいた。

「師よ……ですが──」
「ツパイ、リルヴィさんの言う通りです。ヴェルの為にも、どうか国政を(にな)ってください。あなたはもう何の引け目も感じる必要はない。それに……あなたにはもう一つ責任を負っていただかなくてはいけないことがあります」
「もう…… 一つ?」

 あたしは開かれた扉の端に移動して、ビビ先生に場所を譲った。もうココからはあたしの出る幕じゃない。ビビ先生があたしの願いに応えてくれる、ううん、先生自身もそれを望んだんだ。

「わたしの、ことです」

 ビビ先生が一歩を進めた。操作パネルに邪魔されたツパおばちゃんは、後ろへ下がることは出来なかった。

「二年前、あなたとアイガーは、ホルンとわたしの生活に突然舞い込んできました」
「……今回巻き込んでしまったことは、本当に申し訳なかったと思っています」
「巻き込まれたなどとは思っていません。むしろあなたとの日々は楽しかった。ホルンもアイガーという素晴らしい伴侶と十匹の可愛い仔犬を得て、良い母親になることが出来ました。わたしは……彼らも、そしてあなたのことも、家族だと思っています」
「か、ぞく……」

 ビビ先生がもう一歩、扉を抜けてコクピットへ。けれどツパおばちゃんは辛そうに俯いたまま、身じろぎすることはなかった。

「久方振りに家族を持てたわたしを、あなたはまた独りにしようというのですか?」
「も、もちろん! アイガーと仔犬達を、ホルンや貴方から引き離すつもりはありません」
「違います。あなたのことです、ツパイ。彼らには彼らの生活がある。なのにあなたはわたしの隣を、また『がらんどう』にするつもりですか? ……ですから。あなたにはそれを埋める責任があると言っているのです」