「ツパおばちゃん。ヴェルに戻ったら……いなくなる、つもり、なんでしょ?」
「……!」

 あたしの第一声は、ちょっと厳しさを含んでいた。それはおばちゃんの想定を超えていたらしく、声は発しなかったけれど表情は驚きに変わった。

「自分の叔母があんなことをしたから……でもサリファも、いえサリファさんも、二千六百年前に神様に封じ込められた悪意の塊に操られていただけだった。だからもうおばちゃんは自分を責めなくていい。サリファさんもおばちゃんも被害者なんだから」
「そんな眉唾なお話、ヴェル全国民が信じる訳がありません」

 おばちゃんはフッと小さく息を吐き出し、視線を足元へ下げた。

「どうして? 十七年前まで空に浮かんでた国に住んでるみんなだよ!? 信じないワケないじゃない! それでなくても今回シュクリだけが飛んでいったのを、みんな目撃してるんだから!!」
「リルヴィ……」

 更に激しくなった声色に、落ちていた目線が再びあたしへと持ち上げられた。

「でもそんなことはどうでもいいの! 肝心なのはツパおばちゃんがどう思うかだよ。他人の目なんて気にしなくていい。それじゃあ、何? 今までこんなにヴェルを大切にしてきたおばちゃんなのに、悪意の塊がいなくなったからって、もう国がどうなってもいいって言うの?」
「いえ、しかし──」
「この十七年、ヴェルを統治してきたのはおばちゃん達だよ……ヨーロッパの一員としてこれからって時に、おばちゃんは職務放棄するの? そんなの間違ってる! むしろおばちゃんは首相になって、今までみんなと一緒に準備してきたことが実になるように、ちゃんとやり遂げるべきなんだって!!」