「ツパおばちゃん、入りますよー」

 一応ノックもしたけれど、呼びかけて間髪入れずに扉を押し開く。驚いた小さな背中が、操縦席から勢い良く立ち上がった。

「やっぱり……!!」

 あたしの声に恐る恐る振り返るツパおばちゃん。その見開かれた(まなこ)は……青みがかった黒い瞳をしていた。

 そう! ツパおばちゃんの眼は元々「青みのある黒」だったのだ。そして髪色こそが「赤」だった。ウェスティがジュエルの正当継承者の真逆「黒髪と薄紫の瞳」で生まれてきたように、サリファが関わったがためにツパおばちゃんの「色」も逆転していたのだ。そんなこと、周りを見れば本当は容易に分かることだった……甥っ子ルクの髪も赤茶色だし、ルクの妹シフォンちゃんなんて、それこそ綺麗な赤毛をしている。ルクのパパ──つまりおばちゃんの弟も、茶系が強いけど赤みはあった──その髪が眼が、今まで戻らずにいたことが、ツパおばちゃんが完全に切り離せていない証拠だった。

 でも今、目の前のツパおばちゃんの髪は……あぁ、何て美しく鮮やかな紅色なんだろう! ワインレッドのようなバーガンディ。瞳であった時と変わらない(つや)やかさと深みがある。

「すみません、何となく出ていくタイミングを(のが)しまして……見事にサリファを封じ込めてくれたことは、この髪と眼が変わった時点で分かりました。本当にありがとうございました。それより……リルヴィ、ご無事で何よりでした」
「おばちゃんに「大丈夫だよ」って宣言したのだもの。無事に帰ってこないとね! 戻ってきたら、ちゃんと話すねって約束したのだし~?」
「……」

 イタズラっぽく話を切り出したあたしに、けれどツパおばちゃんは乗ることなく、にわかに表情を曇らせた──。