それからエルムは名残惜しそうに、ラヴェンダーの花々に守られながらシュクリの火口へ消えていった。

 エルムが「シュクリの恵み」と言った光の波は今も続いていて、ヴェルへ向けゆっくりと離れてゆくシュクリから、風に乗せられてあたしにも届けられた。

「こ、れ……涙? だ……」

 それはシュクリと、そしてエルムの流した涙だった──全身に浴びて感じられたのは、二人のヴェルを想う温かな気持ち。二度の町狩りで悲しみに暮れた果て、ヴェルを守りたいと立ち上がった二人の……でも今、この涙は辛く淋しいものじゃない。とても希望に満ち溢れていて、平和を願って流された涙だ。

「あ……──」

 二人の涙があたしの頬の涙に触れ、更に光り輝いた!

 そうだ、確か……『ラヴェンダー・ジュエル』の宿主が流す涙を【薫りの民】の作った香料と合わせると、作られたキャンドルやアロマランプには人々に優しい気持ちを与える力があると云う。

 あたしは『ジュエル』の継承者で【薫りの民】の娘だもの。きっとシュクリとエルムの恵みによって、涙が力を持ったんだ!!

 サリファはあたしを『軸』にして、世界中に悪意を撒き散らすつもりだと言った。だったら今この涙の恵みも、世界に拡散出来ないかな!?

「え?」

 一瞬左眼(ジュエル)が勢い良く光り輝いた。あたしの考えにリトスも賛成してくれたみたいだ。あたしは宙に浮いたまま、自分の身体をゆっくりと回転させてみる。あ、大丈夫そう? 少しずつスピードを上げて、シュクリとエルムとあたしの涙は、リトスの力で遥か遠くまで飛んでいった。