「あっ、あれ!?」

 抱きかかえていた筈のエルムはいつの間にか消えていて、何故だか自分の足元から先にラヴェンダー畑が広がっている!

 ──ありがとう、リルヴィ……あなたはワタシに諦めないことを、ワタシにも出来ることがあることを教えてくれた。そして……ワタシを諦めないでいてくれた……

 次に聞こえてきたエルムの声は、胸の内からではなくラヴェンダーの花群れの先の先だった。その声を辿って視線を上げる。そこにはまるで妖精みたいな美しい女性が佇み、あたしに淡く微笑んでいた。



「えっ、と……エルム、なの?」

 微かに面影は残しているけれど、さっきまでの子供っぽいエルムに比べて、ずっと大人びた様子だ。

 ──うん。ヴェルが待っているから、お先にシュクリと一緒に帰るね。リルヴィ、これでもう会えることはないと思うけれど、あなたに会えて本当に良かった。リトスも……これからもリルヴィを宜しくね……

「え? あ、あのっ、あたしは!?」

 こんな無人島に独り──否、リトスと二人で置いていかれても~!?

 ──これ以上「お邪魔」しても悪いと思うから……でも大丈夫だよ。リルヴィもちゃんと帰れるから。先に戻ってヴェルを元通りにしておくね。……それじゃあ……リトス、今まで本当にありがとう……リルヴィも沢山ありがとう……
「あ……ううん。あたしこそ、色々とありがとう! エルムに会えてとっても嬉しかったよ!!」

 あたしの返事とお礼の言葉に、ずっと向こうのエルムはニッコリ笑ったけれど。

 同時に涙もいっぱい流していた。その優しく柔らかな泣き顔に、あたしの瞳からも刹那涙が溢れ出した──。