黒煙(サリファ)が浸蝕しようという直前、双光の帯がシュクリの火口上をグルりと塞ぎ、間一髪触手の行く手を阻む。そして再びの……噴火? ううん、違う……編み目状の帯の合間を縫って、溢れ返ったこの光の波は──!?

「シュクリの……恵み、だよ──」

 ゆっくりとおでこを離したエルムが、シュクリを見下ろしながら呟いた。

 シュクリの恵み──確か二度目の町狩りの際に、ヴェルに降り注いだという──?

 火口上に広がる景色は『ジュエル』の力を以てしても、目を細めずにはいられないほどの眩しさだった。

 やがて双光の網はシュクリの光に溶け込んで、金色とラヴェンダー色のマーブルな彩光が、空を天を埋め尽くしていった。あたかも金色の海にラヴェンダーの花びらが降り注いでいるかのように。



 サリファの黒霧は光に包まれた途端、(おぞ)ましい(うめ)き声を上げて無数の闇粒へと結晶化してしまう。先にインターデビルへ流れていった悪意のように、サリファもお行儀良く列をなして、燃え盛る炎の渦へと、少しずつ、少しずつ、消えて……いった──。

 サリファの断末魔がついに(つい)え、静けさに包まれた虚空の時間。安堵と達成感に満たされて、美しくたなびく琥珀と瑠璃色の雲海を満喫する。

 とうとうやり遂げたんだ……シュクリの神様と、その使いエルムと、ラヴェンダー・ジュエルとなったリトスと、そしてあたしで──。

 ──本当にありがとう。リトス、リルヴィ……

 そんな余韻に浸っていた心奥(しんおう)へ、エルムの声が突如響き渡った。あたしはハッと我に返り、慌てて首を正面に戻した。