(大丈夫だよ! リトスがサリファを吸い取ってくれるまで、リルヴィの幻影を造って惑わすから。だからゴメンね、ちょっとだけ髪の毛ちょうだい)
(あ、うん……っ!)

 エルムはおもむろにあたしの横髪をつまんで、「ゴメン」と再び一言、指に力を込めて数本を引き抜いた。この魔法も見事に繋がる──サリファが生み出したザイーダやママの幻影。やはりサリファはエルムを乗っ取ることで、エルムの持つ力を悪用していたんだ。

(それじゃあ、行くね。エルム、本当に気を付けてね!)
(うん、リルヴィこそ気を付けて! リトス、リルヴィをよろしくね!!)

 エルムの願いに、仄かに光るラヴェンダー・ジュエル。

 今一度上空のサリファを見上げて、あたしは一気にトンネルを目指した。今でもサリファはパニックに陥ったように、火口の入り口付近を波立つ海のように騒めいている。

 無事に通路の端に辿り着いて、その陰に隠れながら後ろを振り向いてみた。──本当だ! エルムはまるで怯えるようにあたしの幻影にしがみついている。これでしばらくはサリファの目も(あざむ)ける筈!!

 ──行こう、ラヴェンダー・ジュエル。ううん、リトス=ヴェル=デリテリート!

 心の声にリトスが再び反応を示した。淡く灯る薄紫色の光に導かれて、あたしとリトスは出口目指してシュクリの地下洞を進んでいった──!!



[註1]「悪魔の口(インターデビル)」はトルクメニスタンの天然ガス田「地獄の門 (タルヴァザガスクレーター)」をモデルにさせていただきました。
こちらは既に五十年燃え続けています。