ウェスティが自分のことを後半の名「スティ」と二人に呼ばせたのも、そうしたヒントを与えていたつもりだったのかも知れない……もしくはツパおばちゃんのように、ウェスティもその名を切り離したいと主張していたのか……今となっては知る(よし)もないけれど、ウェスティが両方の意味を込めて、自分の愛称を作っていたのだとしたら。

 なんて哀しい人なんだろう……タラお姉様と一緒にいた日々が幸せだった分、別れざるを得なかった後半の人生はとても淋し過ぎて……そんなウェスティのためにあたし達に内緒して、シュクリとリトスは水面下で動いていた。

 でも、二人の気持ち……今のあたしならきっと分かるよ。

 二度の町狩りでヴェルが全てを失おうとした時、二人は襲ってきた狩人達すら救おうとした。人を憎むことなく、ただひたすら悪を憎んで……だから同じように悪意(サリファ)に従うしか出来ずにいたウェスティを……二人は(ゆる)したんだ。

「リルヴィとアタシって……ナイショを打ち明けられても、ヒミツにしておけなさそうだもんね。だからシュクリとリトスは……」

 目尻に涙をたっぷり溜めたエルムが、あたしに向かって微笑んでいた。

 「確かにそうだね」── 一緒に笑ったあたしの右眼からも、スルりと涙が落ちていった。

 お互いの泣き顔が映った瞳を、同時に真上のサリファへと向ける。

 さぁ、もうこんな茶番は終わりにしよう──二千六百年前の「悪意のかたまり」サリファさん。



   ■第十章■ TO THE SKY(空へ)! ──完──



※事件が起こる以前のタラとウェスティの様子は、前作『ラヴェンダー・ジュエルの瞳』の78話──エピソード短編集の[α]Tarantina & Westyにございます。

 タラがウェスティを葬り、哀しみの果てに巡り会ったシアンとの始まりは、81話からの【Prelude to 『Ash or Rukh』】~続編に続くひとひらの物語~にございます。

 宜しかったらお目通しください。