「わわっ、あぶない~!!」
『いい加減諦めよ。シュクリも大人しくお前達を待っているではないか……ずっと封じ込めてきたわれの分身が、世界へ放出される(さま)を神も見てみたいのさ! さぁ、われの許に寄れ。火口から一気に……──なっ、なにっ!?』

 ──!?

 よもや間一髪というほど至近に迫っていた霧の触手が、突然の震動に(おのの)き止められた。サリファの独りよがりな解説を遮るように、シュクリの轟音が再び響き渡ったのだ。先程までと同じように地響きは明らかにシュクリが「動いている」ことを示していた。我が家の屋根はあっという間にヴィジョンの端へ遠ざかってしまい……でもサリファが驚いたということは、サリファの意志じゃないということだ! シュクリは一体何処へ行こうというの?

『何故だ……シュクリはもはやわれの手の内の筈! シュクリの意識が覚醒したというのか……? いや、まさか、そんな筈は……』

 サリファが動揺している内に、あたしは急いで火口底に着地した。おでこを触れ合わせたり、また抱き締めて飛び回ったり、エルムを愛するシュクリの逆鱗に触れてしまったのではないかと心配になったのだ。

 けれどエルムは至極落ち着いていて、混乱に蠢きまくるサリファを静かに見上げていた。

「ね、エルム。シュクリ、どうしちゃったの!?」

 上に向かっていた可愛い鼻先が、ゆっくりとこちらを向いた。その下の小さなピンク色の唇は、うっすらと口角を上げていた。