サリファの言葉が聞こえているのかいないのか、エルムはしばらく微動だにしなかった。

 あたしのおでこに自分のそれを触れさせたまま、ひたすら何かを呟いている。もしかして……リトスから告げられたことを忘れないように復唱しているの? エルムは『ラヴェンダー・ジュエル』と会話が出来る!?

 宿すあたしですらヴィジョンで導かれることはあっても、『ジュエル』の声を聞けたことなどないのに……そこはやっぱり天使さまなのだろうか!?

『今更抵抗しても無駄だ! エルム、お前はまもなく用済みとなるが、愛するシュクリとリトスと居たいのだろう? リルヴィと共に『軸』となって回るが良い』

 反応しないあたし達を見下ろすサリファは、苛立ったように赤い触手を伸ばしてきた。抵抗しても無駄だと言われたって、抵抗しないでいるわけがない! あたし達に今出来ること──それは絶対諦めないこと! あたしは動こうとしないエルムを抱き締め、何とか持ち上げてもう一度浮上した。火口内をグルグルと旋回し、霧状の触手をかわし続けた。

(うん、分かった。何とかやってみる!)
(エルム……リトスの言うことが分かるの!?)

 小声でリトスに呟いたエルムは、あたしの問いかけに無言で目配せしてみせた。一体どういうやり取りが行われたのか……一刻も早く聴きたいのに、サリファの邪魔は益々激しくなってゆく!