「ごめんね、リルヴィ。アタシもう一つ謝りたいことがあるの……ヴェルが空に浮かんでから、みんなに生まれた悪意はジュエルが抜き取っていたって、サリファが話していたでしょ?」
「あ……うん」

 ヴェルの平和がジュエルによって保たれてきたことは、もちろんあたしも小さい頃から知っていた。けれどそれはジュエルがパパと一緒に眠りについてしまった前までのことなので、具体的なことは一切明かされていなかったのだ。だからまさかジュエルが国民の悪意を抜き取っていたなんて……それでもそれが本当だとすれば、納得がいかないわけじゃない。現実とは思えないほど穏やかだった世界。空の上で雲に隠されていた昔のヴェルが、おとぎ話に出てくる架空の国みたいに絵本に描かれていたのもそういうことだ。

 ──『遠い遠い西の果て、小さな小さな島国ヴェル。一年中ラヴェンダーの花畑に囲まれた(かぐわ)しい平和な国。他の国の民は誰一人足を踏み入れたことはなく、王国ヴェルからは誰一人として出たことがない。西の海の何処に存在して、どうやったら行けるのか。誰も知らない、けれど平和で幸せな国と云われる伝説の王国』──と。