ママとあたしの生まれ育った家。パパが二年近く眠り続けていた家。

 周りは果樹園や牧草地、お隣さんもずーっと離れた片田舎の我が家になんて、サリファにどんな用があるというのか?

『手始めにヨーロッパを掌握したいのさ。お前の家はまさしくその中心だ。お前にとっても好都合ではないか? 飛行船に乗らずとも我が家へ帰れるなんて……自宅の上空で『ジュエル』と共に、われとジュエルの集めた『悪意』を、ヨーロッパ中に撒き散らす『軸』となれるだなんて……今から愉しみで仕方がないであろう!?』

 嘲笑の止まらないサリファに、あたしは悔し紛れに唇を噛んだ。

 確かにみんなが口々に自慢するほど、我が町はヨーロッパのド真ん中らしいけど!

 シュクリを人質に取られたも同然のこの状況、このまま成す術もなくサリファの(しもべ)になり下がるなんて……あーもうっ、何か手立てはないのかしら!?

 あたしは疲れたようにゆっくりと下降し、火口底の岩場に着地した。逃げ場がないのは分かっているので、サリファは火口付近でご機嫌宜しく今でもゆうらり揺れている。

「ごめんね、リルヴィ……やっぱりアタシがいけなかったの。アタシがお姉ちゃん達みたいにもっとしっかりしていたら、こんなことにはならなかったのに……」
「ううん! そんなに自分を責めないで、エルム……だってあの頃エルムはあたしと同じ十四歳で……ん? あれ? ──んん??」
「どうしたの? リルヴィ?」

 あたしはエルムの言葉に、ふとデジャヴを感じた。えーと、何処でだろ? どの言葉だろ? エルムの台詞を頭の中で反芻する。『やっぱりアタシがいけなかったの。アタシがお姉ちゃん達みたいに……!?