「エルム! 目を覚まして!!」

 意外にもサリファはされるがまま赤く黒い煙を散りぢりにしながら、あたし達を遠巻きに見守っていた。

 剣が蜘蛛の巣のようにまとわりつく糸を斬り裂いて、落ちてきたエルムを全身で受け止めた。

「ん……あっ、リルヴィ……?」
「エルム! 良かった!!」

 エルムを救えればもうこっちのものだ。ジュエルとあたしが手を組んだら、こんなにいとも簡単だなんて~! やっぱりあたしの考えは間違っていなかった!! でも『悪い心(サリファ)』には実体がないのだから、剣では倒せないのだろう。だったらあとはジュエルの力で封印をして……あれ? それじゃあいつものやっつけ方と変わらないのかな? 今後一切エルムを巻き込まないようにするためには、あたしはどうしたら良いのかしら??

『さぁ、時が来た……神よ、目覚めよ。一番大切な伴侶が、ついに奪われるぞ……良いのか? 神よ……』
「……え?」

 渦巻く煙から離れゆくあたし達に聞こえたのは、静かなサリファの問いかけだった。

 「かみ」って、大切な「はんりょ」って……? あたしが思いつくのはたった一つだ……「山の神様シュクリ」と、その「花嫁エルム」。それより奪われるって……エルムが? 誰に!?

『神よ、シュクリよ……貴方が眠っておられる間、エルムを守っていたのはこのわたくしめ……二千六百年前を思い出されよ。エルムが元々愛していたのは……『ラヴェンダー・ジュエル』。そう、あのリトスであったことを……』
「え? あ、え……!?」

 サリファの言葉に呼応するかのように、足のずっと下の方から地響きみたいな轟きが聞こえてきた。両腕で抱え込み支えているエルムがハッとした表情を見せる。サリファの言ったこと……えぇと、良く分からないよぉ~一体全体どういう意味!?