独り赤煙に呑み込まれたあたしの前に、スクリューを横倒しにしたような長い渦が現れた。その中だけはタイフーンの目みたいに穏やかな空気が漂っている。『ジュエル』があたしのために造ってくれた道。パパのマントを纏って浮かび上がったあたしの身体は、吸い寄せられるようにその空間を前進した。

 自分を取り巻く紅いトンネルの先は、徐々に血の塊みたいに赤黒く変化していった。おそらくこの先がサリファの中心なんだろう……エルムが話した通り、悪い心の集まりの「核」。まさしくそんなおどろおどろしい不気味な雰囲気に満ち溢れていた。

『ようやく来たか……長らく待っておったぞ……』
「サリファ……エルム!?」

 ついに『核』へと到達したあたしに向かって、四方八方からサリファの声が響き渡った。そしてあたしの目の前、一気に突撃すれば何とか届きそうな距離に、気を失っているのか動かないエルムが……まるで蜘蛛の巣に捕らえられたように(はりつけ)にされていた!

『われはこの娘が存在しないことには動けなくてねぇ……が、ジュエル、お前はいつも良いところで邪魔をする……お前はもう十七年も前に、ヴェルを解放したではないか。いい加減われも自由にしてはどうだ?』

 陰湿な表情を描く煙が、エルムを中心に八の字を描きながらうねり、その唇のような穴からは更に真っ黒な煙が吐き出されていた。

 こんな邪悪な存在、もう二度と野放しになんてさせない! もう二度と……エルムを乗っ取らせたりしないっ!!

 あたしはおもむろに剣を抜いて、囲う煙を蹴散らしながら眠るエルムを目指した。

 普段なら構えることも難しい重い剣が、まるで自分の手のように操れる。それこそジュエルが協力してくれているのだと実感出来た。