「ちょっと、待っててね……」

 あたしは立ち上がって寝台に戻ろうとした。でも……その時、何かが邪魔をした。何か……じゃない、この気持ち、邪魔しているのは自分の気持ちだ。

 「怖い」……そう、思ってしまっていた……ルクを起こしても、もう大丈夫だろうか? もう、襲われたりはしないだろうか? 今は鎖などあたしを拘束する物は何もないけれど、今でもサリファには捕まえられている。ルクは……もうルノじゃなくてルクだろうか? あれがルクだったとしても……ううん、あの時のルクはルクじゃなかった。サリファはルク自身の意志だと言ったけれど、サリファに抵抗して手を止めてくれたのはルク本人だったのだもの!

「大丈夫だよ、きっと」
「う、ん……ありがと、アッシュ」

 向けていた背中を、アッシュの優しい声が後押ししてくれる。

 そうだよね! ルクはきっともう大丈夫!

 寝台に上がり、膨らんだ布団に近付く。遠目には眠っているように思えたけれど、目の前のふくらみは小刻みに震えていた。