『そろそろ観念して、ルノに全てを委ねるがいい』
「……ひっ、やだ……やだってば……い、いやぁっ!!」
「ルクっ!!」

 ルクの両手があたしの(おとがい)を包み、無理矢理正面に顔を戻させた。徐々に近付いてくるルクの顔。迫ってきたのは純朴な瞳ではなく、いやらしさを湛えるサリファの唇だ……ルクの掌は次第に頑なに、あたしの顔はガッチリと押さえ込まれた。もう言葉にならない叫びを上げる唇のすぐ左に──以前アッシュの唇が触れたのとは真逆の場所だ──冷たく柔らかい何かが押し当てられた。そう、ルクの唇。

『フフ、さすが【薫りの民】であるユスリハの血も引く娘だ……この(かぐわ)しさ……最高だねぇ。その中身もさぞや美味しいだろうて』
「きゃ──いやぁぁぁぁぁぁっ!!」
「……リル──!!」

 サリファが言うや、ルクの両手があたしのシャツの襟元を掴んで、思いっきり左右に引きちぎられた。眼下に露わになるデコルテ、キャミソール、胸のふくらみ……この恐怖から逃れるのに、もう一度目を(つむ)っても、目の裏に、鮮明に、焼き、つく。
 
「お願い……もう、やめて……ルク……。こっち、み、見ないで……アッシュ」
「リル……」

 あたしは涙ながらに訴えていた。涙ながら? 違う……もう涙が溢れて何も見えない。

 そんな願いも虚しく、ルクの両手は今度はウエストのホックに掛けられていた。このまま何も出来ないなんて……いやだ、いやだ……パパとママがお互い愛し合ってあたしが生まれたように、お互い好きだって思ってなくちゃ、こんなこと……絶対いやだっ!!