「や……やだ……サリファ、放して……放してったら!」

 鎖とルクに拘束された両手と、馬乗りされた向こうの両脚をジタバタさせて、あたしはひたすら叫んだ。

 段々と言っている意味は分かってきたけれど、反比例してあたしの心は一切を断絶しようとした。

『何を言ったって無駄さ……この行為を行っているのはわれじゃない、ルノ本人だ。ルノのお前を手に入れたいという衝動が、行動に表れているだけだ……そろそろお前もルノの想いに応えてやったらどうだ?』
「ルクの……?」

 あたしは横に逸らしていた顔を、少しだけ正面に戻してみた。やがて怯えて震えるあたしの右眼が、ルクの大きくまあるい翠眼(すいがん)に辿り着いた。口元はサリファに操られているのか、嫌みな嗤いを醸し出していたけれど、ルク本来の無垢な心は今でも瞳に宿っている気がした。

『さあて、まずは何処に触れたい? ルノ。リルヴィの頬か? 耳か? やはり唇か……?』
「いっ……いや、いやっ、やめてやめて、ルク──!!」

 途端鎖が両端へ引っ張られ、あたしの両腕はピンと伸ばされた! 同時にルクの両手が離れる。これでもう自力で拘束する必要がなくなったと悟ったルクの右手は、サリファの言った順番通り、あたしの左頬を、左耳を、そして下唇をゆっくりとなぞるように触れていった。

「ルク……やめてくれ! お願いだ……ルクっ!!」

 触れられた恐怖にさっと首を逸らした先には、必死に懇願し続けるアッシュの姿があった。けれどあたしの視界は暗く淀み、もう味方であるアッシュすら目に映さないよう強く閉じずにはいられなかった。

 ルクが、アッシュが……あたしを「欲しい」ってどういうこと? 二人があたしを好きだと思ってくれていることは分かった……あたしだって二人のことは大好きだよ! でもあたしの好きと二人の持ってる好きはおんなじなの? 今のあたしは……こんな風に、ルクの頬に、ルクの耳に、下唇になんて触れたくない!!