そうしてルク(サリファ)は再度こちらを向いた。

 再びこちらに四つん這いで近付いてきて、あたしは真後ろの枕をあるだけ投げつけた。だけど枕なんて柔らかい物、武器になんてなる訳がない。ルク(サリファ)は顔色変えず──いや、むしろ益々ニタニタとして──「来ないで!」と叫ぶあたしの真上に、ついには力ずくで()し掛かった。

『鈍感娘め……まだ分からないのか? アシュリーもルノも、喉から手が出るほどお前が欲しいんだとさ。二人の男に愛されても、お前はまた「選べない」と言うのだろうけどね。結局ルノに抱かれるしかないんだよ……そろそろ気付いたかい? 王家の血を引くお前と、三家系の一つ【癒しの民】の血を引くルノ……性別は逆転したが、これで『ジュエル』を宿す()(しろ)が作れるという訳さっ!』
「リル! リルっ!! サリファの言葉なんか聞くなっ!」
「……よ……り、しろ……?」

 「よりしろ」という言葉も知らなかったけれど。前後の内容から、あたしの脳は少しずつ理解した。

 かつてサリファが憑依した三家系の一人と、ヴェルの王族から生まれたウェスティ。サリファは再びウェスティのような『操り人形』を生み出そうとしている──?

 舌なめずりをしながらあたしの両手首を掴んだルクの顔は、視界の端にようやく入れて把握しただけで、もう直視することなど不可能だった。

 ……怖い……怖い……良くは分からなくても、ルクの全てを拒絶しようと、あたしの身体は粟立っていった──。