ルク(サリファ)は相変わらずニヤニヤと嗤いながら、とうとう寝台に上がって四つん這いに向かってきた。アッシュがカプセルの壁面を叩き、それは少しでもサリファの行動を遅らせようと、気を散らしてくれているのだと気付いたけれど、その間にココから逃げ出す手段なんて、幾ら周りを見回してもどうにも見つからなかった。

 けれどアッシュの努力が功を奏したのか、ルク(サリファ)はふと動きを止め、ゆっくり彼へと(おもて)を向けた。

『アシュリー……お前はやはりリルヴィを諦めきれていないということか? 三年前の再会時、お前はルノにその道を譲ったのであろう?』
「……っ」

 アッシュの拳も叩きつけたまま動きを止める。

『三年前……再会した十一歳のルノは、ようやくリルヴィへの恋心に気付き、お前と同様愛しい人を守りたいと剣を取った。その時お前は一度諦めたじゃないか……言葉の暴力を振るう父親を止められず、壊れてゆく母親は見て見ぬ振り、ついには家に帰ることからも逃げ出した自分に、リルヴィを愛する資格などないと』
「アッシュ……?」

 雰囲気に呑まれたあたしの動揺する心は、サリファの話す内容も、アッシュの見せる表情の意味も、ほとんど理解出来なかった。

『……なのに、どうした? ルノでは頼りないと悟ったか? それとも……もったいないとでも思ったのか? やはりお前もリルヴィが欲しいと……だがそうはいかないんだよ。『王女様』と交わるのは、ヴェルに(ゆかり)のないお前じゃあダメなのさ……なぁリルヴィ(王女様)?』