「どうして……どうして一緒に逃げなかったんだ! ビビアンさんが作ってくれた好機を、リルは……どうしてっ──」
「……」

 こんなに恐いアッシュをあたしは知らなかった。もちろん分かっている……あたしを心配してくれたからこその怒りなのだと。でも……

「……でも、ツパおばちゃんがもし本当に死のうとしていたのなら……」

 ──自分独りが逃げるだなんて、やっぱり出来なかった。

 あたしは……ツパおばちゃんに死んでなんかほしくない──誰一人、死なせたくない。

「ビビアンさんが残るって言ったじゃないかっ! あの人ならきっとツパイおばさんを守ることが出来た。あの場はビビアンさんが何とかしてくれると信じて、退却すべきだったのに……いや、僕が是が非でもリルを連れ去れば良かったんだ……僕が不甲斐ないばっかりに……!!」
「アッシュ……」

 後悔の念に(さいな)まれて頭を抱え込むアッシュの苦悶の姿に、あたしは二の句が継げなかった。

 またこうしてあたしは周りを苦しめるだけなんだろうか? 傷つけるだけなんだろうか? アッシュだけでなく、きっとツパおばちゃんもビビ先生も、パパもママもタラお姉様達も、今もあたしを心配してくれている筈だというのに──。

「ご、めん……ごめん、なさい。アッシュ……」

 振り絞った謝罪の言葉に、アッシュは刹那ハッと息を止めた。数秒落ち着きを取り戻そうとするように、胸に手を当てて呼吸を整える。やがていつものアッシュに戻り、それでもバツの悪そうな微笑みを、ようやくという様子でこちらに向けた。

「いや……ごめん、こんなことで取り乱して。過ぎたことは過ぎたこと、だね。それよりサリファの居ない内に、何とか逃げ出さないと」