『さぁ……行こう、リルヴィ。われら……二人だけの世界に』
「二人、だけの……?」

 かち合った翠の瞳がニヤリと嗤う。おもむろに抱き上げられたあたしはいきなりの展開に萎縮して、サリファの行為を拒絶出来なかった。気付いたツパおばちゃんが必死に妨害を試みるけれど、すぐさまザイーダの大きな身体に堰き止められてしまう。赤茶の毛むくじゃらの向こうから、くぐもって聞こえる切ない祈り──

「ア、アシュリー! お願いします!!」
「はいっ!!」
『そうはさせぬわ……』

 途端あたしの後ろに赤い光のドレープが燃え立ち、まるでカーテンを引き閉じるように流された!

「アシュリーさん、飛ばします!」
「はいっ!!」

 光は地面から湧き上がる噴水のように、上へ上へと伸びながら左へも広がっていった。ビビ先生の「飛ばす」という言葉に即座理解を示し返事をしたアッシュが、先生へと向きを変えたのが微かに映ったけれど、それ以降の三人の姿は光に遮られ隠されてしまった。

 そして視界を覆い尽くした赤い波は、ルクとあたしの身体を包み込むようにグルグルと巻きついて──

「リル──っ!!」

 頭上に微かにアッシュの声? 瞳の先で(くう)を仰ぐルクの横顔も、(いぶ)されるように赤い煙に掻き消されていく。

 シュクリ山頂同様あたしは再び……いえ、これは自らの意志を持って、だ──サリファの手中に身を委ねた──。






   ■第八章■ TO THE FACT(真相へ)! ──完──