『簡単なことさ……リルヴィがわれに囚われないよう「リルヴィ」としか呼ばないことを条件に、ルノの肉体を戴いた。つまりリルヴィ、もうお前は用なしだ』
「え……!?」

 思いがけない台詞に、一瞬意味が分からなかった。あたしを「ルヴィ」と呼ばないってだけのためにルクは……でも用なしってどういうこと!?

『リルヴィ……われはお前でなくとも甦ることが出来るのは分かっておろう? もちろん「娘」でなくなったのは計算外だがね。ルノはわれにとっては血の繋がった又甥(またおい)ゆえ、幾分扱い易いだろうて……これはこれで好都合というもの』
「で、でもっ……『ジュエル』も必要なんでしょ!? そしたらあたしじゃなくちゃ、左眼が……」

 左眼の中が空洞でないのだもの……ピータンみたいに呑み込むつもりもないでしょうに、一体どうやって『ラヴェンダー・ジュエル』を身に宿すというの!?

『どうってことはないさ……ルノの左眼をくり抜くだけだ』
「いっ、いや! やめてっ!!」

 サリファがまるでそうするかのように、ルクの左眼に自身の手を寄せた。ルクなのに……ルクじゃない。嘲笑うかのような意地悪な口元、愉しそうな嫌味な声。

『では……リルヴィ、われの許へ来るか? 今ならまだ間に合う。ルノの代わりにお前がわれの肉体となるか?』
「答えはノーです。リルヴィ、二人と共に逃げてください」
「ツパおばちゃん……?」

 あたしの代わりに答えたおばちゃんは、ゆっくりと弓から矢を外した。アッシュとルクの間合いに割り込み、そして──



「サリファ、どうか私の身体を使ってください」



 ルクならぬサリファに向かって、おもむろに(ひざまず)(こうべ)を垂れた──。