「ルクアルノ、リルヴィを「リルヴィ」と呼ぶということは、サリファに操られていないということですか?」

 左横にあった細い影が、あたしの前をスッと覆った。ツパおばちゃんがまだまだ離れた先のルクに問い掛ける。お願い、どうかそうであって! そうすればみんなで逃げられる!!

「うん! サリファは山頂に一旦戻ると言って今はいないよ。でもココを出るまでは「リルヴィ」って呼んだ方がいいと思って」
「良かったールク! 無事で!!」

 ルクがこちらへ手を振り走り出して、あたしも浮足立って駆け寄ろうとした。けれど手前のツパおばちゃんが右腕を伸ばし、あたしの動きを制止する。「まだ分かりません。警戒してください」──おばちゃんの(ひそ)やかな声にハッとした。そうだよ……サリファはあたし達の動向に気付いている筈だもの。みすみすルクを逃がすことなんて有り得ない。あたし達は用心しつつも、恐る恐る広場へ足を踏み入れた。

 サリファの光の中で見たままの姿、屈託のない笑顔。目の前に立ち止まったルクは、以前と変わらないいつものルクだ。でもその左腰には意外なことに、あの火口底で見つけられなかったアッシュの剣を(たずさ)えていた。

「ルク、その剣……何処で? サリファが持っていたのか?」
「そうだよ。隙を見て取り返してきた。アッシュもボクの剣、見つけてくれたんだね! 取り替えっこしよう?」

 ルクは嬉しそうに声を弾ませて、ベルトに結わえた紐を解こうと身をよじった。少しばかり戸惑いつつ、アッシュも同じく自分の左脇に手を掛ける。先にほどいたアッシュがルクの前まで進んで、鞘ごと剣を差し出した。なのにルクはやっぱりいつものように手間取って、諦めたように……動きを止めた?