全員が押し黙ったまま、全ての片付けを終えた。アッシュとあたしのザックの中身も殆どカプセルの中に収められ、それでもビビ先生は軽々と肩の上に乗せて、鍾乳洞へ向けあたし達を導いた。

 二手に分かれた道の内、左手の洞穴が選ばれた。右手はグルリとシュクリ山の麓を巡っていて、島東部の出口までは相当時間が掛かってしまうらしい。反面進んだこちらは真っ直ぐ島の西部まで貫いていて、あの四人の乙女達が紅いカニを見つけた海岸の近くに出られるということだった。

「やっぱりこの水の匂い……サリファに捕まっていた時に感じた空気に似ている」

 真後ろのアッシュが独り言のように呟いた。ライトで照らす足先の地面も、確かに濡れて艶やかな岩場だ。やがて洞窟の壁面も白く滑らかになって、ポツポツと天井から雫が髪に(したた)った。

「き……れい……」

 ルクのことを想えば、周りを囲む岩の芸術に心奪われている場合ではないし、自分の身の危険も常に念頭に置いておかなくちゃいけない。けれどライトに切り取られた僅かな景色は、まるで精巧な彫刻のように荘厳で美しかった。

 白亜の岩肌は宮殿の柱のようで、それが奥の暗がりまで幾重にも続いていた。天井から垂れた長細い氷柱(つらら)状から、規則的に水の粒が落ちている。すぐ下には同じ岩の突起が伸びていて、水滴が作り出した「石筍(せきじゅん)」というのだと、この上下が繋がって「石柱」になるのだと、見惚れるあたしにアッシュが教えてくれた。

 あたし達が歩む通路みたいな道の横には、並んだように静かな水が(たた)えられていた。時折降ってきた水玉が何層にも波紋を描き、ピチョン……ポチョン……と可愛いらしい音を立てる。それは洞窟内に反響して、あたかも神聖な音楽を奏でた。ココにもっと明るい光があったらどんなに素晴らしいことだろう。あたしはつい感嘆の溜息をついていた。