「ツパイおばさん、『ラヴェンダー・ジュエル』の力を使う以外、サリファには決定打となる攻撃はないのでしょうか?」

 食事を終えて、アッシュが片付けながらおばちゃんに質問した。「ラヴェンダー・ジュエルの力を使う」──おそらく山頂へ登る間に、アッシュもそれくらいのことはパパから聞かされたんだろう。でも現状『ジュエル』も手元にないのだから、確かにどう戦えば倒すことが出来るのか、あたし達には何の情報もなかった。

「残念ながらジュエルの力で封印する以外、拘束する方法は存じません。まぁ、あると言えばあるのですが……ほぼ実行出来ない禁じ手が一つ」

 三人の視線がおばちゃんに集中する。「禁じ手」という印象の悪い言葉を吸い込んだ耳が、僅かに震えた気がした。

「サリファは基本人の肉体を乗っ取って行動します。その憑依された人物の命を断てば……サリファ自身もおそらく」
「……」

 それはまさしく「禁じ手」だった。誰も人を殺したりなんてしたくない。ましてや悪いことをしているのは、その人ではないのだもの。命を奪われる道理なんてないのだ。

「只、それも一時しのぎでしかありません。この二千六百年の間、サリファのようにジュエル継承者に近付き、ウェスティのような「反逆者」を生み出した王妃は過去に三人。もしかしたら彼女等も全てあの「名もなき少女」の生まれ変わりだったのかも知れません。そうなれば四人目となるサリファを以前のように退けても、数百年後にはまた同じ事件が起こるのでしょう。ジュエルが……存在する限り」

 ──ジュエルが存在する限り。

 あたしが赤い光に捕まろうという直前、ラヴェンダー・ジュエルはあたしに向かって飛んできた。それはあたしを助けようとしたからだと思ったけれど、他にも理由があったのだろうか? サリファを抹消する……そんな機会を窺っていたのだとしたら──

 ──あたしにはやっぱり逃げている場合じゃない気がする。