「リルヴィさん、絶対にわたしから離れないでくださいね」
「は、はいっ!」

 お願いした半熟片面の目玉焼きを食パンに乗せてもらい、あたしは優しい笑顔に大きな返事をした。確かにママが「ルヴィ」と呼んだ時の、あの強制的な力に対抗出来るのは、力持ちのビビ先生しかいないと思う。



「それから一つ、全員にお願いがあります」
「お願い?」

 みんなの手元にもアツアツの目玉焼きトーストが配られて、しばらく黙々と朝食を進めていた静寂の中に、ツパおばちゃんの落ち着いた声が再び響き渡った。

「万が一にもルクアルノを取り戻せなかった場合、師とアシュリーはリルヴィを連れて脱出してください。最悪の結末はリルヴィがサリファに捕らえられてしまうことです。それだけはどうにか回避したい。どうかその時は私だけを残して、三人は洞窟から退避してください」
「えっ……」

 声を洩らしたのはあたしだけであったけれど。さすがにアッシュもビビ先生も驚きに目を見開いていた。

「ルクアルノは私の甥です。弟夫婦の為にも私が必ず連れ戻します。師よ、この二年に沢山のことを貴方から学ぶことが出来ました。ですから、どうぞご心配は無用です」
「ツパイ……」

 ツパおばちゃんの紅い瞳には、揺るがない決意が宿っていた。おばちゃんを強情だと言った先生には、もう止められないことは分かっているのだろう。それでもビビ先生は「仕方なく」といった雰囲気は漂わせず、「心から信じている」という熱意のこもった頷きを返した。