「特に話すつもりなどなかったのですけどね、何処からかツパイの耳にも入ったようで……もちろん子供の頃の(たわむ)れの約束です。わたしもその痛手に(さいな)まれながら今まで生きてきたつもりはありません。が……ツパイには違うのでしょう。自分の存在がわたしに昔の記憶を甦らせてしまうこと、手を掛けたウェスティが自分の従弟であること、そしてもし自分があの時ウェスティを抹殺出来ていたらと……彼女は今でも考えてしまうのですよ」
「……」

 昔のパパのように、ツパおばちゃんの抱えている物が大き過ぎて重過ぎて……あたしの唇は開いても何も言葉に出来なかった。右眼から涙が頬を伝う。ビビ先生はそれに気付き、慌ててハンカチーフを手渡してくれた。

「わたし達は出逢うべきではなかったのかも知れません。それでも彼女はわたしから離れずに、弓を習うことを懇願した。それはおそらく自身の為ではなく、わたしの為なのだと思います。ウェスティの母親サリファを(ほうむ)ること……復讐など、誰も幸せになれないことは分かっている筈なのに」

 あたしの泣きそうな息の音と、先生の深い溜息が洞穴に響いた。でもそれを機に表情を和らげたビビ先生は、

「辛い話をしてしまいましたね。すみません……貴女がわたし達の未来に期待していることを感じてしまったから。ツパイはサリファを消し去れば、わたしの許からいなくなるでしょう。でも……それがツパイの為にも最善なのだと思います」
「先生……?」

 潤んだ瞳を恥じらうように、先生は再び食糧袋に手を突っ込んだ。ビビ先生もツパおばちゃんも、お互いのことをこんなに想っているのに……ずっと一緒にはいられないものなの?

「卵も無事だったみたいですね。目玉焼きは片面焼き(サニーサイドアップ)両面焼き(ターンオーバー)、どちらが宜しいですか? 半熟(ハーフボイルド)固焼き(ハードボイルド)もお手の物ですよ!」

 元気良く掲げられた卵の白さが、水の張られたあたしの(まなこ)に、いやに眩しく反射した──。