ビビ先生はあたしの期待を裏切らなかった──ちゃんと続きを話してくれた。

 ツパおばちゃんが今でもサリファ(カコ)に囚われていること、それが具体的にどのような状況かは分からないということだけど、明らかにおばちゃんは今でも何かに縛り付けられているらしかった。

 『ジュエル』の見せてくれたパパが話していたことも、昨夜おばちゃん自身が言ったことも、同じくそういうことなんだろう。それが取り去られなければ、おばちゃんはきっと首相にはならない。逆を言えばそれがなくなれば、おばちゃんは首相に……なるの?

 そして先生が言葉を途切れさせた「わたしのこと」。それは詰まるところ「先生の過去」だった──。

「わたしには物心つく前から仲の良い幼馴染がいましてね。彼女は二つ年上な所為か、いつも大人びたことを言ってはわたしを戸惑わせたものでした」

 「まだ小さかったわたしには、意味が分からなかったんですよ」先生はそう言って、懐かしむようにクスりと笑った。

「或る春休みの始まり、国外に住んでいる親戚に会いに行くのだと、彼女は両親と飛行船に乗ってヴェルから出ていきました。その出発の折に彼女はわたしに約束を交わさせたんです……戻ってきたら……「婚約しましょう」って」
「ええ??」

 先生の苦笑交じりの最後の言葉に、あたしは思わず驚きの声を上げていた。

「わたしがまだ九歳の頃の話ですからね……「結婚」くらいでしたら理解はあったのですが、「婚約」という言葉を知っているほど大人ではなかったんです。飛行船の扉からご両親が彼女を手招きしていましたし、わたしは仕方なく分からないまま承諾をして、それでも彼女は嬉しそうに船に乗り込んでいきました」
「は、ぁ……」

 わたしの呆けたような相槌に、ビビ先生は困ったような笑顔を見せた。幼馴染の少女からムリヤリ約束させられた婚約。そんなお願いを受け入れた時も、先生は同じ表情をしていたのだと思う。