「ツパイもアシュリーさんもその内目覚めるかも知れませんね? そろそろ朝食の準備を始めましょうか?」
「あの……先生?」
「はい?」

 傍らの食料袋へ手を突っ込んで、材料を物色し始めた先生に問い掛けた。変わらぬ笑顔で振り向くビビ先生。この大らかで温かな優しい心は、ツパおばちゃんにとっても癒しの存在になったに違いない。そして今も……以前も先生が、おばちゃんだけを「ツパイ」と呼び捨てにするのは……きっとみんなに対してとは違う想いがあるからだ。

「あの……ビビ先生は、ツパおばちゃんをどう思っていますか?」
「……ツパイを、ですか?」

 自分の前に引き寄せた袋から手を止め、先生はゆっくり上方の遠くを望んだ。ややあって視線をあたしへ戻し、

「とても素晴らしい人格者だと尊敬していますよ。彼女はわたしには話しませんでしたが、タラさんが教えてくれました。三年後の首相に推薦されたのだと。ツパイであれば、国民の誰もが納得するでしょう」
「あ、えと……」

 もう~! そうじゃなくてっ!!

 どうしてこうも大人は恋バナをはぐらかしてくれるんだろう!?

「只……彼女は『過去』と決別しなければ、その地位を得ることはないでしょう。そしてわたしのことも──」
「え?」

 言葉半ばで黙りこくった先生の瞳は、もうあたしの目線から逸らされていた。真っ直ぐ先の見えない闇を、淋しそうに見詰めていた──。