微かにでもパパとママの姿が見られたお陰で、良く眠れた気持ちがした。

 光の差し込まない洞窟の中なので、瞼を開いても明るさは感じられない。隣で衣擦(きぬず)れの音がしたから、ツパおばちゃんはまだ眠っているみたい。途中ビビ先生と交代したのだろうか? 今はまた先生が見張ってくれているの?

「おはようございます、リルヴィさん。お早いですね」
「あ、おはようございます! ビビ先生」

 ツパおばちゃんを起こさないように気を付けながらテントの外へ出た途端、優しい音楽のような声(バリトン)が挨拶をしてくれた。大きな身体を振り向かせながら、先生が笑顔で見詰めている。どうやらライトの光が注がないように、自分の影で遮ってくれていたようだ。

「ちょうどミルクが温まりましたから、飲まれますか?」
「わ、ありがとうございます!」

 先生は自分の下に敷いていた四枚のゴザの内、三枚を抜いて隣に座ろうとするあたしに差し出した。一枚を返して半分ずっこ、目の前の小さなオイルストーブから、カップに移されたホットミルクを受け取る。一緒に渡された蜂蜜を溶かして、今度こそ本物のほっこり温かなハニーミルクを飲むことが出来た。

「先生は休めたんですか? あたし……交代もしないで、沢山眠っちゃってごめんなさい」

 湯気の向こうの柔らかい横顔に、遠慮がちに問い掛けた。甘い香りが痛みそうな胸を癒してくれる。

「途中でツパイが代わってくれました。わたし独りでも大丈夫と断ったのですけどね……彼女は意外に強情ですから。小一時間前にアシュリーさんも来てくださいましたが、そちらはお断りさせていただきました」
「アッシュも……」

 曇った表情は傾けたカップで隠せただろうか? 相変わらず不甲斐ない自分に落ち込みそうになる。そんなあたしにビビ先生は、

「貴女は何も気にする必要はないのですよ。リルヴィさんはお幾つですか?」

 と温かな眼差しを変えないまま、あたしに年齢を尋ねた。
 歳がどうしたというのかしら??