「私はそれでも構わないと思ってきましたし、これまでも特に不自由はなかったのです。只、ルクアルノは気が優しい。あの子は好条件を与えられれば、自分のことは二の次にしてしまうでしょう。それが貴女にとって脅威になり()る行為であることも知らずに……」
「あたしにとっての脅威?」

 現状ルクがあたしを「ルヴィ」と呼べば、あたしはまたサリファの光に吸い込まれてしまうのだろう。けれどルクがルクとしての意識を持つ以上、彼はあたしを「ルヴィ」と決して呼ばないだろうから、確かにルクが取り込まれれば、彼はあたしにとっての脅威になる。でも……おばちゃんの声色が(はら)む得体の知れない暗い響きは、もっと違う脅威を暗示している予感がした。

「おばちゃん……ルクはあたしにとって、どんな脅威になってしまうの?」

 ランプのオイルが切れたのだろうか。下方から灯されていたおばちゃんの表情が、少しずつぼやけて闇に溶けていった。

「十四歳の貴女には、言い(はばか)る内容です」
「……え?」
「もちろんそうならない為にも、私達は全力で貴女を守ります。貴女にはそれに応える義務がある。どうかそれだけは忘れずにいてください」

 明確な答えが手渡されないまま、ランプは一切の光を失ってしまった。おばちゃんはそれを機に、ブランケットの中へ身を横たえたみたいだった。

 あたしの心は目の前の暗黒に、(にじ)んでしまいそうな弱さに怯えながら──。



[註1]ジュエルとの契約:ツパイは花嫁候補となるべく時間を「止められた」一年弱だけではなく、もはや候補とならぬよう自ら時間を「止めていた」二十八年があります。その期間が「契約」と言われる部分です。アイガーもジュエルの力によって瀕死から復活した為、やはりジュエルの「跡」を持っています。