立ち上がりながら「いいえ、ご無事だと信じていましたから」と答えたビビ先生は、今度は後ろで「順番待ち」をしていたアッシュの目の前に跪こうとした。そんな過度の礼節を、アッシュはアッシュらしく(とど)めてお先に挨拶をする。

「アシュリー=エヴァンスです、ビビアンさん。シアン兄さんの窮地の折には、大変お世話になりました」
「ご存知でしたか。わたしはわたしの今出来ることをしたまでです。シアンさんもアシュリーさんも大事に至らなくて本当に良かった」

 そうして握手を交わしたビビ先生は、とっても嬉しそうに瞳を細めた。

 『わたしの今出来ること』──胸にグッと響くその言葉に問う──あたしの今まで自分に出来たことって、今出来ることって……何? あたしはずっと守られるだけの存在で、結局みんなの足手まといで……また……助けてもらう時を待ってしまった。

「リルヴィ? ……すみません、ラヴェルも貴女を助けに行くと言って聞かなかったのですが、ユスリハのことを想って船内に残っていただきました」
「あ……うん。パパが来たら、ママの心配が二倍になっちゃうもんね。そうしてもらって良かった。ツパおばちゃんも、本当にありがとう」

 ツパおばちゃんはあたしの曇った顔を見つけて、パパのことだと推測したのだろう。あたしは気を取り直して出来る限りの笑顔を見せた。とりあえず今のあたしに出来ること──これ以上みんなに心配を掛けないことだ。

「さて、色々訊きたいことと説明したいことがございますが……まずはルクアルノ、彼はどう致しましたか?」
「「あ……」」

 いきなり現実に引き戻されたように、アッシュとあたしは困ったような言葉を洩らした。ルクだけがいないこと。口元をへの字にして沈黙してしまったあたしの代わりに、アッシュが今までの経緯を二人に伝えてくれる。

「……そうでしたか。では一番にルクアルノの救出を優先せねばなりませんね」

 一通りの説明を受けたツパおばちゃんに、特に動揺した様子は見られなかった。おばちゃんにはその可能性も考えられていたってことなんだろうか?