「リル」
「……うん?」

 気まずそうに持ち上げたあたしの瞳に、映り込むいつもの朗らかな笑顔。アッシュはこうしてあたしを常に安心させてくれる。なのにあたしは……もう一度頭頂部が重苦しく感じた刹那、アッシュの表情が苦しそうに一変して、お腹を抱えて……(うめ)き出した!?

「うぅ……」
「ア、アッシュ!?」
「うう~!」
「えっ? ど、どうしたの!?」

 丸められた背中をさすってあげながら、ただあたふたとしてしまった。やっぱり打ち付けた胸が痛むのだろうか? いや抱えているのはお腹なんだから、今朝食べた物に当たっちゃったりしたのだろうか? ザックの中に薬はあったかしら?? 動揺と混乱の狭間を行ったり来たり、あたしは成すすべもなくアッシュとザックを見回してしまった。そんなキョロキョロと挙動不審な耳に響いてくる、楽し気な……笑い?

「くっくっく……」
「え? アッシュ!?」

 痛みや苦しみを抱えている筈の両手は、いつの間にか笑いを(こら)えようとお腹を押さえつけていた……??

「……って~唸りたくなるくらいお腹が空いた!」
「アッシュ……??」
「火を起こせる物はないけど、缶詰くらいなら食べられるよ。ライトの電源がなくならない内に何か食べよう、リル」

 ──いつもありがとう、アッシュ。

 真っ暗でも、出口が見つからなくても、何もなくても。アッシュがいてくれるだけで勇気が持てた、元気が出た。

「んー! あたしもお腹空いたー!!」

 そしてココに困ったり慌てたり、楽しく振り回されてくれるルクも一緒にいてくれたら──!!