心地良さを通り越して、圧迫に感じた胸が大きく波打ってしまった。それに気付いて力を抜いたアッシュは、あたしの様子を感じ取ろうと、静かに耳を澄ましたようだった。

 早鐘みたいな鼓動にも気付かれてしまったかしら? せめて真っ暗闇で良かったよ……きっとルクやツパおばちゃんにも負けない、真っ赤な顔をしている筈だから。

「ごめん……苦しかったよね」
「う、ううん」

 申し訳なさそうな言葉に、慌てて(かぶり)を振る。アッシュはもう一度「ごめん」と呟いて、あたしの髪をそっと撫でた。

「さて……ずっとこうしている場合じゃないね。お腹が空いて動けなくなる前に食糧を見つけないと」
「食糧って……でも」

 こんな暗がりで、ましてや山の火口底なのだ。触れる物はゴツゴツとした石ころしかないのに、立ち上がったアッシュの声には、何処にも不安要素は見つからなかった。

「サリファはリルを生かす為に僕を解放したのだから、少なくとも探せる範囲に、それ位の物資は置いていったと思うよ」
「物資?」

 アッシュの影は答えないまま、付近をうろうろと動き始めた。地面の起伏につまずかないよう気を付けながら、物資(それ)らしい荷を探っている。あたしも微力ながら協力して、足先に石以外の何かがぶつからないかと辺りを歩き回った。