「パパは……あたしが生まれる前も、今回も……みんなを救うために、自分の命を犠牲にしようとした。……アッシュもそういうつもり、だったの……? 自分を犠牲にすることで、ルクを助けようとしたの……?」
「リ……ル、それは──」

 高揚したあたしの眼と唇から、涙と想いが止め()なく流れた。左の頬にアッシュの指先が触れ、その上を転がった水玉を感じて、目の前の細い影が困ったように揺らいだ。

「ヤダよ……あたしは二人が、全員が助からなくちゃ、ダメだって思ったんだ! ……アッシュはパパのそんなところに憧れたの? カッコいいって思ったの?? そんなの間違ってる……!!」
「ちが……」
「だからママもお姉様もおばちゃんも、必死にパパを止めたんだよ! お願いだから……パパのそんな部分、見習わないでっ、憧れないで……パパは、本当はっ──!!」
「リル……」

 アッシュの長い腕が左右から伸びてきて、あたしの背中を柔らかく包み込んだ。それでも勢いがついてしまった心の(たか)ぶりは止まらなくて、しゃくり上げるような泣き声はもう止め方が分からなかった。

「違うんだ、リル。僕は……そういう面に敬意を払った訳じゃない……ちゃんと分かっているよ、ラウルおじさんの尊敬する部分。だからこそ憧れて、目標に掲げて……。だけど僕は……君のパパにもシアン兄さんにも、きっとなれないと思うけどね……」
「……アッシュ……?」

 優しく抱き寄せられて、胸に押し付けられたあたしの耳に、乾いた笑いが小気味良く響いた。きっとなれないってどういう意味? パパとシアンお兄様とは違うアッシュの部分って……何??

「全部諦めきれたら、いつか教えてあげるよ。……だから、今だけは──」

 あたしの横髪に温かな吐息が掛かる。それから今までで一番強く抱き締められて、アッシュはしばらくその腕を……あたしを放すことはなかった──。