「違うよ、リルの所為なんかじゃない。サリファは『ジュエル』さえ手に入れば、ラウルおじさんが『乗り移れる対象』を引き渡さなくとも、いつかは見つけ出す手筈だったと思う。だから遅かれ早かれきっと誰かが囚われることになっていたよ。でも……ルクを奪われたのは僕の失態だ」
「アッシュの……?」

 包み込むアッシュの手に瞬間力が入る。それに気付いたアッシュは自分を(とが)めるように、あたしの手を放してしまった。

「ルクもユスリハおばさんと同様に、リルを確保してしまえば、サリファにはもう必要でないと僕は思っていた。だからそのルクが目を付けられるなんて考えもしなくて……リルが光に呑み込まれる時、自分がリルを掴まえるには、ルクを飛び上がらせることくらいしか思いつけなかったんだ。あの時もっと熟考すれば良かった……せめて僕がリルの手首を掴んだ時点で、ルクの手を放させておけば……なのに……本当にごめん」
「そ、そんなこと! アッシュの失態なんかじゃないよ!! あたしこそママの偽物に気付けていたら、こんなことにはならずに済んだのに……」 

 頭頂部が重みを感じるように、お互いの頭がガックリと垂れ下がる。ルクが捕まった要因は一体何なのだろう。あたしが自由になった理由だって、どうにも良く分からない。そんな疑問がグルグル回転する脳ミソを整えたくて、今一度アッシュに協力を求めた。

「うん……サリファが去る前に『三人を取り込んでおけるほど、まだ力が戻っていない』って言ったのを覚えている? 推測だけど、王家の結界から出られたお陰で、サリファは自分の力を取り戻し始めているのだと思う。でもまだ僕達三人を縛りつけていられる程まで力が戻っていない。最終的にはリルだけが必要なのだろうけど、ルクにも何かしらの利用価値を見出したサリファは、とりあえず逃げられない此処に君を閉じ込めて、ルクだけを自分の手元に置いた。例えリルを逃がしてしまっても、ルクが「ルヴィ」と呼べばまた掌握出来る訳だしね……で、僕はきっとリルを生かしておく為にこちらに残された……のだと思うよ」