「──ひっ!!」

 あたしは思わずか細い悲鳴を上げた。がっちりと握られた左足首から、ゾクゾクとした悪寒が全身を昇ってくる。

「……リ……ル」
「え? ア……アッシュ!?」

 掴んだ相手がアッシュだと分かった途端、あたしの震えは一掃された。すぐに放されたので、少しだけ後ろに下がってしゃがみ込む。朧げなシルエットはゆっくりと身を起こし、大きく息を吐いて目の前に座り込んだ。

「ご、めん……驚かせて。落下の衝撃で声が出なかったんだ……こんな暗闇で逃げられてしまったら、追いかけられる自信もなくて」
「落下って、どれくらい落ちちゃったの!? け、怪我は? 大丈夫??」

 あたしは動揺して、ともかく確かめようと腕を伸ばした。でもこんな真っ暗な中で何をどうやって判断しようというのだろう……触れてもアッシュに負担を掛けるだけなのに。

 闇を掻き分ける両手が、今度は優しく掴まえられる。握ってくれたアッシュの掌は、とても温かく感じられた。

「大丈夫だよ……実際さっきリルから見えた位の、目線の高さから落ちただけだから。ただちょっと胸を打ったみたいで、一瞬息が出来なかったんだ」
「う、うん……ごめんね、アッシュ。あたしのせいで……あたし、やっぱり……」

 ──来なければ良かったのかも知れない。

 そう言ってしまいそうな唇を急いでつぐんだ。みんながママとあたしのために頑張ってくれた行為を、無にしてしまうと思ったからだ。