「お、姉様……?」

 ほんの一瞬の出来事だった。けれどパパを平手打ちしたのは、明らかにタラお姉様の掌だった。

『……だけど。一言言わせてもらうわヨ? どうしてまた独りきりで行動したのヨ!? どうして今まで隠してきたの!! まるで二十年前のあの時みたいに……全てを独りで背負(しょ)い込もうとするなんて……だからワタシはリルヴィちゃんを向かわせたのヨ。リルヴィちゃんとユスリハちゃん、どんなに二人を助けたいと思っても、さすがに二人の目の前で自分から命を差し出せないでショ! それともアナタは自分の娘に、父親が自ら死んでいくところなんて見せられるの? ラウル、アナタを止めるには……ワタシにはもうそれしか方法が見つからなかった。二人には本当に申し訳なかったわ……だけど!!』
『……ご、めん……タラ』

 パパの声は(かす)れて、幽かに震えていた。目尻の端が僅かに赤い。それは叩かれたせいだったのだろうか。それとも涙を(こら)えているのだろうか。

 きっとパパはあの時を思い出したんだ。パパが『鍵の付いた祈り』で死ぬのなら、自分が舌を噛んで先に死ぬ! ってママが叫んだあの時を。ママはパパの考えをお見通しで、全身全霊でパパの行動を止めようとした。そしてタラお姉様も……もしかしたらツパおばちゃんも、それを止めるためにパパを追いかけたのかも知れない。

『アナタもアナタヨ、ツパイ! 名前にそんなカラクリがあったこと、どうして今までナイショにしてきたのヨ!? サリファはともかく、昔恋人だったウェスティに、ワタシも操られていたかも知れないって気を遣ったワケ?? 従弟の従姉だからってそんなところ、ラウルに似る必要なんてないんだから!!』
『タ、タラ……?』

 パパがまくし立てられたと同時に、戻ってきたツパおばちゃんの姿が画面の隅に映り込んだ。いきなり怒りの矛先を向けられたことに、おばちゃんは驚いて呆気(あっけ)に取られたみたいだ。そんな投げつけられた言葉を良く噛み砕いたツパおばちゃんは、タラお姉様の気持ちを悟って申し訳なさげに俯いた。